PARCO STAGE × 人間風車
「クリスマスプレゼントは1,000円まで」
そんな"大人に売れる"童話を作るのが今作主人公の「親友」国尾(良知真次)。
「主人公」は売れない童話作家の平川(成河)。
アフラ◯クのCMが地雷になりたくない人は読まないでください。
売れない童話作家の平川(成河)が披露する奇想天外な童話に、近所の子供たちは大はしゃぎ。
けれども、童話の登場人物や題名はレスラーの名前、テーマも"三流大学出身より高卒の方がまし" だから、子供の親からはクレームばかり。
公園に集まる子供たちの中には、へんてこ童話の主人公になりきって現れる奇妙な青年・サム(加藤諒)がいた。
ある日、平川はひょんなことからTVタレントのアキラ(ミムラ)と知り合う。その出会いは平川の作風にも大きな変化をもたらしていくのだが…
今作はそんな「主人公」平川の物語。
良知さんの演技が見たくて、しかも福岡へ来てくれるということもありホクホクした気持ちで観劇しにいきました。
実際は平日18:30開演のため、仕事終わりダッシュで劇場へ向かいギリギリに着席しワクワクからというより急いだために心臓をバクバクさせ、評判がある意味良くないのでどうなんだろ〜と不安に思いながらの観劇でした。
何も知らない状態で度肝をぬかれるのが好きなので、"ファンタスティックホラー"という情報のみを持って見ましたが、
ファンタスティックホラー
なんて生易しいものではありませんでした。
ホラー
です!
舞台でホラーをやるのは難しいみたいですね。もちろん舞台でホラーを観るのは初めてだったんですが、じわじわと、そして確実に観ているこちらの精神を弱らせていくものでした。
前半は楽しかったし笑えてとっても面白かったです。前半は「主人公」平川の作る物語で進むんですが、中央の大きなセットと登場人物の衣装がガンガン変わって観ているだけで楽しいし、小ネタを挟んでそれが笑えるのなんの。
物語は中世ヨーロッパが舞台のお話が多いのかな?王様だったり妖精さんだったりが出てきます。ですが、あらすじにある通り"三流大学出身より高卒の方がマシ"やら"家に執着するな"やら確かにそうかもしれないけど子供に聞かせるのはどうなんだというお話ばかり。おまけにタイトルがプロレス関連の名前で物語に関係ない。
童話で飯を食いたけりゃ親にウケる話を書けと親友の国尾は説教するが、平川は納得しない。
いつも通り公園で子供達に話を聞かせていると奇妙な青年が現れる。
それと同時に平川は美人タレントのアキラ(ミムラ)とも出会う。
青年は見た目の割に子供じみていて、話せばどもるが平川の話す物語や台詞を完璧に覚え、主人公のマネをする。聞けば歳は31だと言う。名前はサム(加藤諒)。最初は警戒していた平川も、サムを面白がり仲良くなっていく。
アキラはTVディレクターの小杉(矢崎広)の猛烈アピールを疎ましく思い、家で男が待ってるからと誘いを断る。そんな中平川と出会い、二人は次第に惹かれあっていく。
ディレクターの小杉と平川、そして国尾は高校の同期であり、平川は小杉に金を借りる仲でもあった。
この小杉という男、私利私欲の為なら手段を選ばず、山際(堀部圭亮)という刑事に目をつけられていた。
公園で話を聞く子供たちには松田凌、菊池明明、川村沙也、佐藤真弓、山本圭祐。
と言っても皆さん何重にも役をこなしていらっしゃって、子供が親役だったりテレビ局スタッフだったり物語の中の王様だったり妖精さんだったり語り部だったりと早着替えが凄いです。
ここからはネタバレ
最初は平川の童話のお話で進みますが、それが終わると現実世界へと変わります。平川とアキラのお話。
子供の想像力豊かでお話を聞いている時のキラキラした顔が好きだと話す平川に、この人になら弟の事を話せると安心するアキラ。
アキラの家で待つ男とは、自分の弟の事だった。
はっきりとは言いませんが恐らく弟には障害があり、31にもなるが子供のように接しなければならない。一緒に暮らすのは少し苦痛だった。その事がひっかかり、恋愛にも内向きだったのかなと思わせられる。でも平川にならーー。
アキラとの出会いで平川の作る童話にも変化が現れる。それは名作と呼ぶにふさわしいもので、子供たちはいつもの平川でないと困惑する。一方国尾は感激し、自信を持った平川はそれを童話賞へと応募。
その選考に選ばれ、もしかしたら賞をもらえるかもしれない。国尾も驚き、小杉へ連絡する。
アキラは恋の訪れと、最近機嫌のいい弟の話を局のアシスタントにする。弟との関係も良く、最近は弟がどこからともなく覚えてきた物語の主人公の衣装を2人で作ったりするのだと。そこへ平川からの電話。賞の話。ではお祝いをしようと、2人は平川の家で会う約束をする。
ここまではとっても幸せな雰囲気で会場が一杯になり、サムがアキラの弟だと平川が知ったら驚くだろうなあと、3人で幸せに暮らせるだろうなあ〜と。何の心配もなく進んでいく。
そしてここから「人間風車」物語の後半戦
平川の家にアキラが招かれる。2人は緊張しながらも和やかな雰囲気で乾杯を交わす。
母親と叔母以外で初めて女性を家にあげたという平川はガチガチで、大人しく座っていられない。アキラは弟の事を話そうと「私、家に〜と話すと平川は「帰るんですか!?待ってください!面白い話しますんで!」とそれを遮る。
可笑しくなったアキラはどうぞ、と「面白い話」を待つ。
「そうですね、じゃあ、この話は面白いですよ!最近公園に、変な男が現れるんですよ!」
そう言う平川に、会場だけがヒンヤリとする。
「すごく変な奴で、僕の話した物語の主人公のセリフを完璧に覚えてね、家中からかき集めたもの体にくっつけて、主人公の格好をするんですけど、歳は31なんですよ!?」(セリフはニュアンスです)
ここでアキラは気づく。
「面白くないですか?」そう馬鹿にしたように笑う平川に、「面白いですか?」とアキラは答える。
「サム」「えっ?」「あはははは、ああ、あのお話は平川さんの」「どうしてアキラさんが知ってるんですか?」
きっと平川は知っていたらこんな馬鹿にしたように話はしなかっただろうし、恐らくアキラもそれを感じたんだろう。でも、怒りは抑えられなかった。
「私、小さい頃母が羨ましかったんです。」声色を変えてアキラは話し出す。
まだ赤ん坊だった弟は母に抱っこされるとその柔らかい手で母の顔を撫で、撫でられる母が羨ましかったと。自分もされたい。そう思い、台所に立つ母の背中でそっと弟を抱っこした。暖かい。弟はアキラの耳たぶを掴み、アキラはそれが嬉しかった。そして外に出てみよう。そう思った。そっと扉を開け、母と同じように鼻歌を歌いながら弟を揺する。家の前の階段を降りる。「思えば、重いものを持って階段を降りた事、無かったの。」弟の可愛さを話す時の高い声と、ここからの低い声にゾッとさせられる。
階段でつまずき、
咄嗟に
「両手で手すりを掴んじゃった!」
「ゴン」
「柔らかいはずの赤ちゃんが」
「ゴン、ゴン」
「ゴン!」
その話を聞く平川と会場は同じ反応だったと思います。実際にその様子を見ているわけではないのに、アキラの話し方でそれを想像してしまうし、エグいぐらいに想像がつく。
「サムは私の弟です。もうサムにあなたのくだらない話を聞かせるのはやめて」そう言い帰ろうとするアキラを平川は止めるが、アキラは家を出て帰ってしまう。
落胆する平川。
そこへ1人の男が現れる。帰ってくれと頼むが、男は平川が応募した童話賞の選考委員だと、そして平川の作品は受賞から外れたと告げる。そうですかと答える平川になおも話を続ける男。ある一冊の本を平川へ渡す。
「盗作でしたか」
その本は少し前に国尾先生が出版なさったものです。と。
平川は笑って信じず、これは俺が作った!証拠なら公園の子供達に聞いてくれ!そう言うが、男は子供達になら聞きましたよ。でも不思議なことに口を揃えてこう言うんですよ「平川が作ったとは思えない」そして国尾に謝るよう言い放ち、帰っていってしまう。
「いいねえ〜!いい画が撮れたよ〜!」
そう言い奥から現れたのはTVディレクターの小杉。「盗作はダメだよ」「ほらもっと怒って!」そう平川を煽りながらカメラを回す。「国尾が言ったのか?撮れって」平川は聞くが小杉は答えない。平川は怒り、小杉を追い出す。「何だよこれ」
好きなヒトを傷つけてしまった事、そして言い訳を聞かずに突き放されてしまった事、親友に裏切られた事。そして売られた事。子供達に裏切られた事。一気に襲われる。まるで今まで平川が作ってきた童話の結末だ。
そこへ家にあるもののあり合わせで作った鎧を着たサムが現れる。それは前に平川が話した女性騎士の格好だった。「お、おお、お話。お話しろ」どっか行けよと平川は突きはねるが、そうだやっぱり聞け。お話してやるよ。とサムを強引に連れ戻す。
暴行に近いものを受けるサムは嫌がるが、平川は続ける。
ある所にビルという男が居た。優しい男だったが、ある時皆に裏切られてしまう。ビルは魔王と契約し、全身雷に撃たれ、不死身の体を手に入れる。そして裏切ったもを一人一人、殺していくーー。
まずは小杉、その殺し方が残忍極まりなく、サムは絶叫する。そして次は国尾。国尾は虫、特にゴキブリが嫌いだった。そして次は子供たち。子供は簡単だ…と力が弱い事をいいことに(良くない)事を進める。そして最後はアキラ。サムは「やめろ…」と非力に訴えるが、平川の語りは止まらない。語り終わると2人はその場に倒れ、シンとなる。サムが体を痙攣させ、すくっと立ち上がり、階段を上る。高台へ登ると、そこにあった灯台のパン!と割れる音と共に絶叫する。
これほんとびっくりしたー…隣の女の子と一緒にビクッ!と体を揺らしてしまった…
暗転後、舞台は公園で調査する刑事2人。
悪臭に鼻を歪めながら、現場に落ちる肉片を拾う。
ここからはもう書きません。
あまりに酷いので、書きたくない。し、思い出したくもない。さっき平川が話した通り、サムは実行していきます。途中それに気付いた平川はサムを止めようとしますが、サムは止まらない。しかも不死身設定にしてしまったが為に、殺しても死なない。
断片的に書くなら(閲覧注意)粉々のガラス、袋詰め、滅多打ち、眼球、押し込み、ゴキブリ、窒息、カッター、頭皮、分裂、等でしょうか。これだけで嫌なのは伝わりますね。
これを舞台上でやってしまうんですから、嫌にも程がありますよね。途中観なければ良かったと後悔しました。
しかも血が流れるんです。この血が無ければまだマシだったかもしれない。血の赤を見て尚更後戻り出来ない感が強くなりました。
全てが終わるとサム、いや、自分を主人公ビルだと主張する男は平川に次は誰を殺す?と尋ねてきますが、平川はもうやめろと止めます。
それでも止まらないサムへ平川は自分を殺せと言うが、怯み、そうだと新しい話を聞かせます。サムは嫌がるが、どんどんその話へとのめり込んでいく。
主人公は背中に羽根の生えたダニー。悪戯っ子ダニーは街中の人から嫌われますが、ある時盲目の少女と出会う。最初はその子にも悪戯をし、ウサギの糞を幸運のブドウと騙し食べさせますが、そのせいでその子は病に倒れてしまう。その少女があまりに心清らかで、ダニーはその子に元気になってほしいと看病に通う。だがその甲斐も虚しくその子は亡くなってしまう。その直前にその子は羽根の生えた悪戯っ子の話をする。隣町にいるらしいけれど、可哀想よね。と。目の前にいるのがそのダニーだと、女の子は知らない。はず。人は心に羽根が生えていて、死ぬとその羽根で天国へ行ける。でもダニーは体に生えてしまっているから可哀想と。本当はきっと、あなたのような優しいのに。と。悲しみに暮れたダニーは三日三晩泣き続けましたが、ある日塔の一番高い所に赤ちゃんが引っ掛かっているのを見つけます。恐らく鳶に攫われたのだろうと町の人々がそれを心配そうに見上げる。
泣き続けて体力のないダニーはそれを一生懸命助け、地上に降ろします。町の人々に祝福を受けますが、再度塔に戻り「見ててね」と告げる。
「体の羽根を、心に戻すから」
そう言いそのまま体を前に倒す。町の人々は羽ばたけ!と声を上げますが、ダニーはそのまま地面に落ちてしまう。そして町の人々、そして平川は、静かにダニーを見守る。
そうしてお話が終わると、サムは高台に登り、ダニーのセリフを繰り返す。
そしてダニーと同じ結末を迎えるサムを、平川は見守る。
時間も経ち、街を離れる平川。
平川の話が本当だとしても、平川を逮捕することは出来ないらしい。
「死ぬまで生き続けなければいけない」
カバンを持ち去ろうとすると、携帯が鳴る。
その場に落ちていた誰のかも分からない携帯。
不思議に思った平川はそれに出ると、
サムをビルへと変えた魔王らしき声
「俺の話を書け」
そして地響きのような音が会場を揺らし、「人間風車」は幕を閉じる。
あー後味が悪い。
というか胸につっかえる。
でもカーテンコールのミムラさんが美しくて、それに救われました。ニコニコ上品な笑顔と丁寧なお辞儀、少女のように軽やかな走りとそれに揺れるポニーテール。癒されました。
一人で帰るのが怖くて、少し劇場に残りました。足が動かなかった。死にたいしいっそ殺してほしい。
でもこうやって何か大きく感情を揺さぶる舞台って良作で成功と言えるんだろうなあと思います。満足度は高かった。それどころじゃないってだけで。
タイトルの「人間風車」何が人間の風車なんだろうと思い調べてみると、とあるレスラーの異名みたいですね。なるほど!と納得しました。
平川の考える童話のタイトルはどれもプロレスから来たものだし、最後魔王が言い残したことも、そういうことか。と。あの話のタイトルが「人間風車」なんだと。
まだこれから11月まで舞台は続くようなので、興味を持たれた方、ホラーが好きな方にはおススメです。が、グロ、ホラーが苦手な方は避けた方がいいかも…。
俳優さん方の演技も素晴らしく、これは舞台上の作り話なんだと思える余裕が無くなりました。これを演じきる成河さんや加藤諒さんは凄いし大変だったろうな…と。
でもアフ◯ックのCMは地雷になりますよね!?不死身の加藤諒さんとか、、、、、
あと成河さんの雰囲気が村井さんに似ているので村井さん演じる人間風車も観てみたいという感想を見まして、確かに!と思いました。
体力も気力も必要な舞台だと思いますので、どうか最後まで誰一人お怪我などなさいませんように。